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メーカーの中の人が語るなぜ電気・精密機器メーカーは危機的状態なのか 第4回 なぜ革新的な技術が作られないのか



Gagazineのみんなこんにちは。
4回目では新規の技術開発についてもう少し掘り下げてみたい。
メーカーの競争力の源泉は技術力である(とメーカーの偉い人は思っている)が
その技術力も近年停滞している。
その背景には、技術の競争軸が変わって来ているが、
メーカーの中の人、特に偉い人がそれについてこれていないという問題がある。
今回はその辺りについて説明したい。
メーカーといえば技術系の会社というイメージであり、例えば日立を見ても、
新卒の500人が技術系、100人が事務系である。
出展:http://www.hitachi.co.jp/recruit/newgraduate/select/info/

競争力の源泉は技術というのも人数比を見ればあながち嘘ではない。
しかし、日本のメーカーはすごい技術を生み出しているのであろうか。
その辺りを説明する前に、現代の技術開発について述べたい。



技術開発の潮流

技術開発というとどのようなイメージだろうか。
青色ダイオードの中村さんは会議にも出ずに研究を続け、青色ダイオードを発明したという。
最近のノーベル賞受賞者の大村さんはゴルフ場の土から有益な菌を見つけ薬を創りだした。
報道される技術開発というとこういうイメージかもしれない。

しかし実際にはメーカー企業の技術開発には2つの流れがある。
1.基礎研究は殆どやらない
2.様々な研究開発はソフトウェアで行う

1.から見ていこう。
メーカー企業は15年ぐらい前は基礎研究に結構なお金を投じていた。
しかし、これらの研究は事業化が難しく、投資に見合ったリターンが得られなかった。
例えば、SONYは2004年人工知能の研究所を閉鎖している。
では応用研究は投資に見合ったリターンが得られているのかということになるが、基本得られていない。
しかし得られていないからと言って潰してしまうと成長しない企業とみなされ株価が下落してしまうので
まあなんとか潰されずに生き残っている。

2.については、
この2−30年ぐらいでソフトウェア研究のプレゼンスは大きく高まった。
同時にこれまで、ハードで設計していたデジタル回路が、
ハードウェア記述言語というコンピュータープログラムで記述できたり、
筐体の熱設計をソフトウェアでシミュレーションできるようになってきた。
3Dプリンターを使えば、コンピューター上で設計したデータから試作品をすぐに作れるようになったりした。
さらにはDNAなど生体の研究もまずはコンピューターシミュレーションで当たりをつけてから実験が行われるようになった。
このため、現代の技術開発はソフトでできる範囲が殆どを占めるようになってきた。

そのため、ハードウェアで圧倒的な強みを持っていた日本のメーカー企業も、ハードウェアだけやっているわけにはいかず、
GoogleやApple、facebookなどの海外のソフトで勝負している企業と戦わなければいけなくなってきた。

しかし、ソフトとハードでは競争軸が大きく異る。
幾つかの例を見ていこう。


・特許にはあんまり意味は無い


最近、小学生が特許をとったとか、下町ロケットで特許がすごく重要なものとして描かれていたりするとか、
マスメディアは特許がすごいことのように取り上げる。
しかし、実はソフト中心の世界で特許はそれほど意味を持たない。

まず、特許が登録されるまで、出願してからだいたい5年ぐらい審査にかかったりする。
生き馬の目を抜くソフトの世界では、開発して5年も経てば技術は陳腐化している。
もちろん、遡って権利を主張できるが、事業を開始する時点では特許による参入障壁があるかどうかわからない。

またソフトの世界ではライバルはグローバルであり、アジア諸国では権利侵害を立証するのは困難だ
(そもそもソフトは分解すればわかるとかいうわけではなく立証は困難)。
あるいは相手がベンチャーであれば、5年立たずに潰れているかもしれない。

もっと悪いことに、メーカー企業では特許にノルマがあり、全員が何件か書かなければならない。
そのため、アイデアがない人たちがブレインストーミングと称してゴミのような特許を出願することが多い。
日本は米国に次ぐ特許大国という話がある。
ハードウェアの世界ではそれは正しい。しかしこれからはどうだろうか。


・論文にもあんまり意味は無い


権威がものをいう医学の世界などでなければ、
論文として社外に自社のノウハウを公開してしまうことに合理的な意味は無い。
(合理的と書いたのは、技術者のモチベーションアップや教育、ブランドの向上など
 意味が無いわけではなく、筆者も出したほうが良いのかどうかはよくわからない)

そこで現在は学会から企業の技術者は消え、
大学教授の同窓会状態と化している。

読者諸兄も、なんとか学会の論文で効果が立証されていますという謳い文句は信じないほうが良いだろう。



・研究室にこもって研究することにも意味は無い


GoogleやApple、facebookの圧倒的な技術は何であろうか。
iPhoneは圧倒的に使いやすいユーザーインターフェースで一般消費者を惹きつけ、
ガンホーなどのアプリ開発企業に自社のプラットフォームでアプリを作らせて課金額の30%を徴収している。

Googleは数百億のウェブページを集め、一日に何十億回検索されても落ちない設計になっている上に、
我々の検索履歴を分析して最適な広告をユーザーに提示することで企業から広告費を得ている。

これらの技術的な強みは研究室にこもって何年研究しても作れるものではない。
そもそも、20世紀最大の発明と言われる、インターネットは、ハードやソフトの発明が肝ではなく
プロトコル(約束事)の発明である。
もちろんいろいろな技術的工夫が詰まっているが、
コアな部分は「みんなが同じ通信の約束事を守るようにした」ことで、安心して高速に多様な通信ができるようになったことである。

ソフトの世界はみんなが同じものを使えば使うほど便利になり、共通化して安くでき、分析して賢くできる。
そのため、どう普及させるか、どうビジネスベースに載せられるかということと技術開発が一体である。普及しなければ誰にでも圧倒的に使いやすいユーザーインターフェースも、
毎日何十億と発生する検索内容を分析する技術も獲得することができない。
一方、メーカー企業は未だに、技術開発とビジネスが切り離され、
技術を作って置いておけば、事業部がチップに載せ、営業が売ってくれるという開発の流れに沿って動いている。
技術者はこれでは勝てないとわかっているが、
メーカーの社内にはこのような競争軸の変化についてこない人が大勢いるため、改革が進まないのだ。


・なぜメーカーはソフトウェアの世界について来れないのか


何回か書いたが、メーカーは基本的に年功序列であり、
トップに居るのはハードウェアや組み込みソフトの世界で功績を上げてきた人である。
60、50の彼らにはなかなか現代のソフト中心の世界に理解がついてこない。

また問題はトップだけではない。
メーカー企業は技術者を数百人単位で採用してきた。その技術者が40代で技術的に一線で戦えなくなるとどうするか。
もちろん首にできないので、人事や特許、総務、情報システム、プロジェクトマネジメントなどの管理的なポジションに
移動することになる。このため管理的なポジションが技術を失ったハードウェア技術者で占められ、
ソフトウェア技術者は意見や予算の提案が通らないことも多い。

もちろん、そんな中でもビジネスとセットで技術を提案できる技術者もいる。
しかし、そんな技術者も多数の人を説得する必要があるため、いつしか疲れきってしまい、
技術開発まで到達できない事が多い。

・ではどうするか


ここまでメーカー企業の苦境を見てきた。
一つの解決策の潮流としてサービス化というものがある。
これまでは、B2Bソリューションとして、各企業の一部の業務をIT化して効率化することが行われてきたが、
サービス事業とはその業務自体をまるっと請け負って実施する商売形態を示す。

例えば、省エネルギー化を行うため電灯の購買から配線、節電の呼びかけまでまるっと請け負うESCO事業や
印刷コスト削減のため、プリンターの選定や配置から印刷料低減の施策まで請け負うマネージドプリントサービスなどがそれだ。

このようにサービスとして業務を切り出してしまい、
自社で強みのあるデバイスとソフトウェアで業務を行い、コストを削減する。
共通のデバイスとソフトを用いているのでデータ分析を行って、より効率を上げることも可能になる。
また、業務自体は自社の社員が行うため、ニーズの把握も容易となる。
これにより、独自のデータを元にした独自の技術を開発することが可能になる。
一方で、サービス事業は投資が必要になり、
顧客も自社の業務を外部委託するところまで理解が追いつかないこともあり、すぐには売上で独り立ちすることは難しい。
また、コストを削減してしまうと儲けが減ってしまうこともあり、たこが自分の足を食べているという批判も受ける。

とは言え、メーカー企業が今後技術を伸ばしていくにはこの方向性は良いと感じる。
先に述べたように、企業の上の年代には反対勢力が多く、事業はなかなか立ち上がらない。
このため、企業の幹部レベルが中心となってサービス事業に投資し、同時に技術開発を行うことで
ある面ではGoogleにも負けないような技術を開発できるのではないかと期待したい。


※最終回は一番書きたかった新規事業について書こうと思いますが、
説明の難しいところが多く、関係者でない方には理解が難しいかもしれません。


最終回

カテゴリ: コラム
2016年02月07日 00時55分18秒 Posted by neko_ug ( 6,375 PV ) 勢い:13


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コメント(リンクの記載「http://」は行えません)
1 名前:名無し@ガガリアン 2016/02/11(木)16:24:22. ID: c1752518p
4回全部通して読んだけど興味深いね。
いわゆる老害の何たるかがよくわかった。
対案というか解決策も提示してあって同意できるけど
偉い人に届けるのは大変そう、とも思った。
2 名前:neko_ug 2016/02/11(木)22:26:47. ID: a70d774dp
コメントありがとうございます。
みんな好き好んで老害になっているわけではないんですが、
構造的にしょうがない面もありますね。
私も老害化してきたことを自覚しています。
3 名前:名無し@ガガリアン 2016/02/12(金)00:12:42. ID: f75bedbfp
年功序列は老害再生産システムなんですかね
4 名前:neko_ug 2016/02/12(金)16:31:52. ID: 02b0a7b7p
年功序列も問題かもしれませんが、それだけでもないように思いますね。
例えば、50代で一線を退いた人を30代のリーダーの下につけたらうまく機能するかというとそんなこともないと思います。儒教的な年長者を尊重する考えは根強いので。
40代で次の能力を身に着けられるような生涯学習の仕組みが必要かもしれません。日本は雇用の流動性が低いこともあって、数年間大学に行くとかは難しいので。
5 名前:名無し@ガガリアン 2016/02/14(日)02:05:18. ID: 57863b9fp
興味深い内容だった
6 名前:neko_ug 2016/02/14(日)14:45:52. ID: 88d32287p
ありがと
7 名前:名無し@ガガリアン 2016/02/28(日)11:24:34. ID: 5a592332p
老害というより新しい知識を得ない為と思います。
大学が必ずしもいいとは思いませんが、そこまで専門的でなくても勉強する方法は最近色々あります。
8 名前:neko_ug 2016/02/29(月)20:40:48. ID: 5503b8e4p
コメントありがとうございます。
最近はネットで海外の大学の授業を受けられたり、
英会話もスカイプで出来たり、IT勉強会が毎日のように開かれていたりいい時代になりましたね。
相対的に学歴や博士号の価値は下がっているし。
一方で、得た知識を実践する場・時間はなかなか与えられないのがまだまだ課題がありそうです。
知識だけのおっさんほど怖いものはないですねw
9 名前:名無し@ガガリアン 2016/03/08(火)12:30:24. ID: 82cd5d35p
おっしゃる通りだと思います。 アラフィフの私も老害にならないよう気をつけたいと思います。 しかししかし、勉強もしない努力もしない経験もない若者から、先輩技術者を老害扱いするのには正直腹が立ちます。 あ、これが老害?
10 名前:neko_ug 2016/03/09(水)23:10:56. ID: 5ac21650p
老害というよりは人類の老化に対する挑戦なんでしょうね。
誰でも年を取れば物覚えが悪くなり、目が疲れやすくなったりします。だから開発業務ではなくてマネジメントや教育にシフトすべきっていうのはありますが、そういうポジションは限られています。>>9さんのような高位の技術者にもマネージャーにもなれなかった人がどうやって生きていくべきかを設計することが、来るべき高齢化社会日本の行く末を決めることになると思います。