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メーカーの中の人が語るなぜ電気・精密機器メーカーは危機的状態なのか 最終回 なぜメーカーから新規ビジネスが生まれないのか



Gagazine読者の皆様こんにちは。
中の人が語るシリーズは今回で最終回となる。
何故かと言うと筆者が中の人ではなくなるからだ。
もともと多くの人に現状を正しく知ってもらおうと思って記事を書き始めた。
メーカーの外にいる就活生や社員の家族などいろいろな人が知識を持つことで
徐々ではあるが世の中変わっていくだろうと思っているからだ。
今後はエンジニアとしてメーカーを離れて記事を書いていきたい。
今回は最後に、新規ビジネスという視点で語りたいと思う。
現在メーカー企業は物が売れず新しいビジネスを模索しているが、
もう何年も五里霧中であり、メーカー企業にとって非常に重要なテーマであるからだ。
・良い商品を作ることとビジネスは違う

「良い商品とビジネスは別」と言うのはいろいろな分野で言われる話である。
それはメーカー企業にも当てはまる。
しかしかつて、物が売れていた時代、メーカーにとって良い商品とビジネスの成功はイコールだった。

当時世の中には物が足りなかったし、よく壊れたりもしてそれが当たり前だった。
電球や電池などの消耗品もすぐ切れて当たり前だった。
しかし、現在は家庭でも職場でも物が溢れ、なかなか壊れなくなった。
組み込みのソフトが無料でバージョンアップするのも当たり前になった。
これにより顧客は一度買えば何年も商品を買う必要がなくなったため、
メーカー企業は商品が売れたあともお金を稼ぐ仕組み(ビジネスモデル)を必要としている。


例えば、
・プラットフォームビジネス
  プレイステーション等。ハードウェアや共通のソフトを消費者に提供し、そこの上でコンテンツを作る人達からお金を稼ぐ
・消耗品ビジネス
  コピー機、プリンター、カプセル式のコーヒーメーカ等。本体は安く提供し紙やインクなどの消耗品でお金を稼ぐ
・保守サービスビジネス
  ITシステムのインテグレーション等。受託開発したシステムの保守・運用で稼ぐ

などがそれにあたる。
消費者からすると物を買ったのにまだ絞りとるのかとお怒りかも知れないが、
メーカー企業が巨大な図体を維持するにはこの方法しかないのだ。

しかし近年、これらのビジネスモデルも時代遅れになってきたため、
新しいビジネスモデルの開発が必要になってきた。

・なぜ新しいビジネスモデルが作れないのか

メーカー企業はここ10年ほど新しいビジネスの模索に投資し続けてきたが、画期的なモデルは作れていない。その理由を説明したい。

まず、メーカー企業にはビジネスを作る部門や専門の社員というのは存在しないか少数である。
企画職・マーケティング職がそれに当たると思いたいところであるが、
実際には彼らは既存の製品についての顧客の反応を集め、どこを改良したらよいか優先順位をつけて社内調整をする仕事がメイン業務であり、
一からビジネスを企画する仕事を経験したものは非常に少ない。
これまで日本の大手メーカーは良い物を作れば商品が売れていたため、新規ビジネスを開発する必要がなかったからである。
またそれだけではなく、お上が主導した企画(携帯電話、4Kテレビ、新幹線など)や
言語・文化の壁を利用して海外のビジネスを移植して成功した企画も多いため、
自分たちで企画しなくてもなんとかなっていたのである。

近年企業も必要に迫られ、余っている若手の企画者、技術者・研究者を寄せ集めて新規事業企画部門を作ることがしばしば行われるが、それもうまくいかない。
ビジネスモデルの開発は非常に広範囲のことを考えなければならないが、そのような経験を持ったものは稀であるからである。
さらに、メーカーの技術者の中には技術力や商品力に対する信仰は根強く、自分からビジネスを勉強しようとするものも少ない。

また、ビジネスを考える際には、社内だけではなく、社外を含めて様々な人と交渉が必要になる。
例えばプレイステーションのようなプラットフォームビジネスを作ろうとすれば、
ソフトメーカーの要望をヒアリングして周り、消費者からも要望を集め分析しなければいけない。
開発に入る前には一部の大手ソフトメーカーから確約を取り付けることも必要になるだろう。

急遽集められた技術者たちにはそのような人脈はないことが多く、
そもそも社外に出かけることに対しても特別に上司の許可を得なければいけない制度になっていたりもする。
また、内容がビジネスなので若手同士のネットワークでヒアリングしても大した情報は得られない。
先方で決裁権限を持つ、少なくとも部長級程度の人から情報を得なければいけない。
とはいえ実際のところ、役職が吊り合わない上に、別段権限のない一般社員が話を聞きたいと言っても門前払いがいいところである。

それでも優秀な若手社員ならば、数年で人脈を築き、ビジネスモデルを勉強し、
ヒアリングや分析のスキルを習得しているかもしれない。
しかしその間、経営陣からの評価は低く、
上司は他の部門に人事異動、本人の評価はバリバリ専門をやっていた時の半分、一緒にやってきた仲間は転職しているかも知れない。
そうなれば本人のスキルは別として、上司の説得、仲間の育成など1からやり直しである。

さらに大手メーカー独特の課題として、数百億、数千億のビジネスが要求されるということもある。
第1回で書いたが数兆の売上を持つ大手メーカーは数百億は売上がないと経営にインパクトがない。
しかし、年収1千万にも満たない一般人には数百億のビジネスと言われてもどのようなものか想像もできない話だ。
もちろん経営権もなくM&A(買収・合併)については提案する権利もない。

・展望など

近年は大企業の中でもベンチャー的にビジネスを起こす動きも出ていた。
すなわち小規模から小さいビジネスを始め大きく育てようという試みである。
本音のところでは、あまりにもビッグビジネスが作れないため、小規模のビジネスでもOKとなってきた部分もある。
社内ベンチャー制度は昔からあったが、最近下火になっていたのを、
ベンチャーブームやクラウドファンディングによる資金調達、クラウドソーシングによる人材の調達が掘り起こした形でもある。

同時に、ベンチャー買収や提携の動きも盛んになってきた。
近年、渋谷や新宿で行われるベンチャー企業プレゼン大会に足繁く通う大企業担当者も多い。

一方で、大企業の給料と休みをもらいつつ、ベンチャーのやることをやるのはおかしいという批判もある。
ベンチャー企業は有能な若い人だけを集めて、安い給料で長時間働き、法律スレスレのことをやることに強みの一端がある。
大企業に務めつつそれをやるのは至難の業だし、買収して人事制度を押し付けてしまえばその強みも消えてしまう。
さらに悪いことにベンチャー企業と大手メーカーとはニーズにミスマッチがある。
ベンチャー企業からすると、大手メーカーの魅力的な点は、製造設備や販路、コア事業との協業などにある。
一方で大手メーカーの会社内は分業化されており、新規ビジネスを考える部門と製造・販売・コア事業の事業区は全く別の部門であり意見が通ることは少ない。
製造・販売・コア事業の事業区が血を流してコストをカットしているからこそ、新規事業に投資ができるのであって、
そこに新たな負担を強いるベンチャー企業との提携などを提案しても怖い現場のおじさんに追い返されるだけである。

・ではどうするか

このように、大手メーカーは役職や部署によって見えない壁が無数に存在し、新規ビジネスを実現することは非常に難しい。
企業の面接でコミュ力が評価される理由もそこにある。しかし、もう英雄的なコミュ力の人物が会社を建て直してくれるという幻想を抱くには時間が経ちすぎてしまった。
複数の部門を動かせる大きな裁量を持ったポジションを新設し、積極的に若手を登用していくべきである。
筆者の考えでは、大手メーカーはここ数年は自社のコア事業を最新の技術や仕組みで徹底的に肉付けするべきと思う。
その際、一部の社員に大きな裁量を与え(数億円自由に使用して良い等)、新規ビジネスを見据えたリーダー人材を育てるのが良いと考える。
実際問題、いくら新規ビジネスと言っても、自社で使っていないものは誰も受け入れない。
また、ビジネスが一回りもせず、ヒアリング先を探して終了というのでは人材が育つことはない。
このためまずは自社のビジネスの肉付けが先というわけだ。

あえて肉付けと書いたのは、コア事業は短期的なシェイプアップでしか評価されない構造になっているため、
経費節減が先行してしまい最新の技術や仕組みが根付かないためである。
一方で、各社のコア事業も現在、局所最適に陥り、ちょっとした改善では利益を増やせないこともわかっている。
そのため、経営者の投資判断として、長期のリターンを見た肉付けをしていかなければならない。
当然、新技術の導入はベンダー任せにせず、自社の企画者・技術者・研究者が主体として行う。
一方でなんでも自前主義に陥らず、任せるべきところは任せるビジネス的な視野も持たなければならない。

気をつけなければいけないのは2000年台の同様の活動と同じにしてはいけないということだ。
当時は、自分の部署に仕事を流し、作ったものを無駄ににねじ込もうとする活動に終始してしまっていた。
大きな裁量を与えながらも、将来的に新規ビジネスに繋がるビジネスモデルを構築できるのか、それができる人材が育成できているのか、
任せるところは一流の外部サービスに任せ、自社が注力すべきところに注力できているのか、
その視点を常に持ちながら活動を行うべきである。



・日本全体的な視野で

日本全体的な視点で見ると、現在、大企業はコア事業を徹底的にスリム化し、
そのお金を新規ビジネスに投資しようという動きが盛んである。
そのため、日本全体としてコア事業への投資が減っていて、
ベンチャーも大手の新規ビジネスも販売機会を失っている。
これは負のスパイラルを加速させている構造である。
自社のコアビジネスの長期的成長を通して日本全体として
新しいビジネスの創出を図っていくべきと考える。


日本は儲けることやエリートを作ることに批判的すぎるきらいがある。
しかし、第4回で書いたように、現在では儲けることと技術開発は一体のものであり、
それを実行するためには大きな裁量を持ったエリートが必要なのだ。
日本の将来を担うエリートがメーカー企業から続々と排出されるような世の中になってほしいと願う。

カテゴリ: コラム
2016年03月15日 19時12分44秒 Posted by neko_ug ( 5,077 PV ) 勢い:12


この記事の評価
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コメント(リンクの記載「http://」は行えません)
1 名前:名無し@ガガリアン 2016/03/15(火)23:51:43. ID: 3f1a2957p
まあそれが出来るならやってるわけで・・・
2 名前:neko_ug 2016/03/16(水)09:47:07. ID: df033e0ap
全くそのとおりですね。
できるなら辞めずにやっていたわとは思うし、
何をやるにも多数の障害が張り巡らされてますしね。
3 名前:名無し@ガガリアン 2016/03/18(金)16:08:14. ID: c272ca10p
>ベンチャー企業は有能な若い人だけを集めて、安い給料で長時間働き、法律スレスレのことをやることに強みの一端がある。
ほんとこれだけがベンチャーの強みですねw
うちも5人でソシャゲの開発やってるけど全員給料ゼロです
成功したら山分けしよう的な話はしてますが
こういうことできるのも20代の若いうちだけでしょうね
4 名前:名無し@ガガリアン 2016/03/19(土)10:44:57. ID: c658cc57p
嫌儲思想ほんとひで
5 名前:名無し@ガガリアン 2016/03/19(土)11:35:16. ID: ead5f1eap
また嫌儲が誤解されてる
6 名前:neko_ug 2016/03/19(土)15:20:45. ID: fa7c71c1p
こめんとありがとうございますー

>>3
5人でもソシャゲ作れるんですね。
まあ作れるのは作れると思うんですが最近のゲームはかなり金かかってそうなので

>>4,5
嫌儲と言えるかわかりませんが、
メーカーの人にかぎらず、お金は量販店に下ろせるレベルの商品を作ることでしかもらえないし、もらうべきではないと思っている人は多いと感じます。
7 名前:名無し@ガガリアン 2016/05/01(日)17:45:12. ID: 7110f200p
ソニーのfirst flightなんかはこの記事の提案に近いことを実現しようとしているように見える
8 名前:neko_ug 2016/05/20(金)00:23:56. ID: 63d79a86p
sonyには頑張って欲しいですね。
こういう活動は色々なメーカーがやっていますが、
やっぱりオシャレ感がありますね。
10年は本体の利益に貢献しないのでどれだけ経営者が守ってくれるかが鍵だと感じます。